第八夜
著者:shauna


 再びの談話を終えて、次は宮野理恵の番。

 蝋燭を片手に一度周りを見回し、ゆっくりと落ちつちた口調で話を始める。




 これはね・・・私が片山荘の納税に関する手続きに行った時に、役所の人から聞いた話なの。




  それは・・・都心のマンションの話だったわ。

 私のその話をしてくれた人・・・そうね・・・仮にAさんとしようかしら。

 そのAさんがね。とある夏の日の深夜。友達と一緒に先輩のマンションを訪れたの。

 でね。その先輩の部屋って言うのが9階にあって・・・

 まあ、一般から考えたら非常識な時間なんだけれど・・・

 そのAさんも友達も昼は仕事で忙しくって、休みの日はそれぞれ家族がいるから中々出かける時間もなくって・・・会いに行くとなったらそんな時間しかなかったんですって・・・

 それに、その先輩もまだ独身で独り暮らしをしてたから、そんなに気にする必要もなかったらしいわ・・・




 でね。流石に夜中だから、東京と言えどシーンとしてたそうよ。

 先輩が住んでいたのが都心とは言え、少し離れた閑静な住宅街だったってこともあるんだけど、本当にその光景は建物に明かりが付いているだけのゴーストタウンみたいだったらしいわ。

 2人は一階の駐車場に車を止めて、そのまま歩いてエレベーターホールに向かって、すぐにエレベーターのボタンを押したんだそうよ。

 するとポーンという音と共に9階に明かりが付いたの。

 エレべーターは明かりを伴ってゆっくりとスーと降りてくる。それを2人は何となく眺めていたらしいの。

 でもね・・・そのうちにね・・・なんとなく子供のハシャぐような声がしたらしいわ。

 時間が時間だから、エレベーターはどこにも止まらずに降りてくるの。

 でも、それに伴って子供の声も大きくなるの・・・

 
 それを聞いてAさんは「そうか・・・きっとエレベーターの中で子供がハシャいでるんだろう・・・」と思ったらしいわ。

 確かに時刻は夜中なんだけど、東京ならそんなことは日常的にありうることだしね。



 4階・・・3階・・・2階まで来た時に、エレベーターの中の子供達が結構な声で騒いでいるのが聞こえたそうよ。


 まるでエレベーターの中で走り回ってジャレているような・・・そんな感じ・・・

 これはきっと、一階に付いた途端にエレベーターの中から子供達が飛び出てくるだろう。



 そう思ったAさんと友達はスッと体を避けて、出てくるであろう子供達の為にドアの前を開けてあげたらしいわ。

 そして、そのうち・・・

 チンッていうまるで電子レンジみたいな音がして、扉が開いたそうよ。








 でも、エレベーターの中からは誰も出てこなかった。






 「おかしいなぁ?」「なぁ?」とAさんは友達と顔を見合わせた後、誰も居なかったエレベーターに乗って、先輩の部屋に向かったの。

 その後は、先輩の部屋で一応、「こんなことがあったんだ。」ぐらいには話したそうなんだけど、結局、その後は何も起こらなかったから、その後はお酒を飲んで・・・

 まあ、人間だからね。すっかりそんなことがあったこと自体忘れてしまったらしいの。

 何しろ、嫌な記憶だったし、それに事実その後半年間は何にも起こらなかったしね。




 でもね・・・その半年後のある夏の日・・・その先輩からいきなり電話がきたの。

 まあ、でも、その時の会話も取り留めもない世間話だったらしいわ。でも、その時、その先輩はこんな話をしたの。

 「おい・・・なんか変なんだよ。」
 「変?ですか?」
 「そうなんだよ。俺の部屋9階だろ? なのに、夜中になると子供が玄関の前を駆け回ってるんだ。9階には子供のいる部屋は無いし・・・しかも時間が時間だろ? 確かに他の階には子供がいる家も結構あるけどさ・・・わざわざ他の階から9階まで来てさわぐなんて考えにくいし・・・なんか気になってるさ・・・それで、気になって、俺玄関の扉を少し開けて覗いてみたんだよ。でも誰もいないんだ。もちろんエレベーターだって動いてないし、階段を降りる音もしないんだぜ?それがどうにも気になってな・・・」

 それでAさんはふと半年前のことを思い出して、「ああ・・・そう言えば半年前にも話しましたけど・・・」って言おうとしたんだけど・・・その言葉をさえぎるように先輩が






 











 「おい・・・来てるよ・・・来てる来てる!!!」





 っていうから、受話器に耳を付けてよく聞いてみると確かに子供がハシャ出でるような声が聞こえてくるんですって・・・

 「先輩・・・先輩!!?」

 大声で確認するんだけど、先輩は答えない・・・そうして何度も声をかける内に・・・






 「おい・・・入って来ちゃったよ!!!」





  受話器の向こうから先輩のそんな声が聞こえたの。

 確かに受話器に耳を傍立てて聞いてみると、子供の声はどんどん大きくなっている。

 だから、Aさんも仕方なくなって・・・

 「もしもし・・・もしもし・・・もしもし・・・もしもし・・・」

 声を小さくして何度もそう問いかけたらしいわ。
 
 でも先輩の返事は無かったそうよ。

 子供は相変わらずワイワイ入ってきるの・・・ハシャいでいる声がしてるの。

 声は尚も大きくなっていって、ついに受話器のすぐ向こうに居るほど、ハッキリと聞こえるようになってしまった。






 「ねぇねぇ・・・この人寝てるの?」

 一人の子供の声が電話でそう誰かに尋ねたの。

 相変わらず、先輩の声はしない。

 すると・・・

 もう一人・・・

 また別の少年の声で・・・
























 「ううん・・・死んでるんだよ・・・」

















 その言葉に心臓が止まりそうなぐらい驚いたと同時に電話は切れてしまったそうよ。


 暫くAさんはそれにビックリして動くことも出来なかったそうなんだけど、意識がはっきりしてきた所ですぐにその先輩に電話をかけたの・・・

 でもね・・・

 いつもなら10回コールする間に出るはずの先輩がね・・・

 









 その日に限って出ないの・・・











 だからAさんはすぐに友人に電話して、今あったことを話して、すぐに先輩に電話を入れてくれるように言ったそうよ。


 すると友達もすぐに「わかった。」と承諾して、「もし何かあったら、先輩のマンションまで行くから付き合ってくれない?」と言ってきたからAさんも「あぁ・・・わかった!!!」と言って承諾したそうなの・・・。





 でね・・・。


 Aさんはその後、15〜16分ぐらい待ってたんですって・・・


 するとその友達から電話があったの・・・・。もちろん先輩のことが気になっていたからすぐに出たそうよ。



 するとね・・・



 友達はこう言ったの。














 「おい・・・先輩東京に居ないぞ・・・」



 えっ・・・

 その後、よく聞いてみると、先輩はどうやらずっと仕事で山形にいるらしいの。

 てことはね・・・



 その電話・・・














 一体誰からのモノだったのかしら・・・



 でもね・・・



 その後・・・









 その先輩はそのマンションには帰って来てないらしいわ。



















 行方不明で・・・


 連絡すら取れないそうよ・・・


 

 話しを終えて、Aさんは私にこう言ったわ。


 恵理ちゃん。世の中にはこういう不思議なことがよくあるからね・・・。アパートのお祓いだけは、定期的にやっておいたほうがいいよ・・・って・・・





 話しを終えた恵理は静かに手元の蝋燭を吹き消した。



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